実写「火花」なぜネット配信?

第153回芥川賞を受賞し、累計250万部を超えるお笑いコンビ「ピース」又吉直樹の処女作「火花」。映画配給会社、テレビ局など数社の争奪戦となった実写版は、映像配信の”黒船”Nextflixで6月3日から全10話、計530分が一斉配信されるだ。なぜネット配信なのだろうか?
当然ながら「火花」の映像化権にはオファーが殺到したという。Nextflixに決まったポイントは3つ。1つ目は「クリエイティブファーストの概念」だという。さまざまなオファーが舞い込む中、Nextflixには”条件”がなかったそうだ。
「キャスティングも監督のクリエイティブも、公開の時期も任せますという環境。『又吉さんの世界観をそのまま映像化してください』と、それ以外に商業的な縛りがなかった」という。数字が見込める人気者を並べて、欲を言えば作家の又吉が出演したりすればニュースにもなるぞ…などと話題性ありきの作品作りは最初から排除。実際、一部では又吉が監督や主演を務めるとの憶測も飛び交ったが、プロット作りなど製作の初期にしか又吉は関与していないと言う。
ドラマは原作に忠実で、放送コードの制限がないため、賛否両論あった衝撃の”大オチ”も健在だそうだ。又吉からの注文は「盛り上げるために変なエピソードを付け加えるのはやめましょう。今ある世界観を延ばしましょう」の1点。単行本で152ページほどの中編だった原作の”行間”を徹底して膨らませたという。
小説好きを公言する又吉の独自の感性がにおい立つ文体と芸人の肌感覚が成立させた「お笑い」という世界の文学的青春劇は、派手さを欠くとの見方から映像化に向いていないとの意見もあったそうだ。だが、「450分尺の映画」を目指した実写版では、主人公・徳山の相方・山下とのコンビ関係や芸能界での浮き沈みを丁寧に描写。所属事務所の社長やマネージャー、山下の恋人ら原作にいないか存在が希薄だった人物を色濃く描き、又吉が作った「火花ワールド」を地続きで豊穣にしているとのこと。
2つ目には、よしもとの「海外戦略」があるという。現在Nextflixは世界190カ国をカバー。インドネシアで人気となったCOWCOWの「あたりまえ体操」など、社を挙げて笑いの国境越えを目指しており、「2人がマイクの前でしゃべるだけの職業があることが世界に伝わっていけばいい。”マンザイ”を世界に出していく窓口になってほしい」と期待しているようだ。
3つ目は「ビジネス的なメリット」が大きかったことだという。Nextflixには「配信の権利」だけを渡す契約で、よしもとはパッケージ化など今後の展開においてハンドリングをしやすい。逆に地上波で放送することもでき、グッズを作ったり、マルチメディアでの展開もしやすいとのこと。
映像表現や時間尺の制限が少なく、自由に作品を作れる環境。海外に”マンザイ”を輸出したい会社としての戦略。そして、製作後の展開に広がりがあること。従来の枠組みにとらわれない3つのポイントが、映画でも地上波でもない「火花」を誕生させたのだ。
実写版の出来は作者の又吉も気に入っているそうだ。制約がなく世界観を追求した「火花」、ぜひ観てみたい。